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    2012〜15年掲載

ピエール大場の官能小説「路地裏のよろめき」

ピエール大場著者プロフィール
神保町にある某会社の開発本部部長。長野県出身。かつて「神保町の種馬」と異名をとったほどのドン・ファン。女性を誘うときの最初の言葉は、「美味しいもの食べにいきましょう!デザート付きで」
『NISSAN あ、安部礼司』HP

第百四話『ゆびではじいて、そう、小豆を、揺らして……』

「揺さぶって、指で叩くんです」
『無用之用』の片山美帆は、女神のような笑顔で説明した。

涼川小夜子は、思い出していた。
先月、『無用之用』で開催された、
「ケニア民族楽器カヤンバの体験ワークショップ」。

美帆にすすめられるままに、
カヤンバ……。という楽器を初めて触った。
東アフリカ沿岸地域で広く使われている楽器、いや、
神様と会話するための“道具”だろうか。
葦の茎で編んだ板状の箱。
その中には、小豆が入っている。
シャカシャカ横に揺らすと、マラカスのような音。
波の音にも聞こえてくる。
親指で上部の板を叩く。
揺らして、叩く。
独特のリズムと音色。

森の精霊たちが、集まってきそうだ……。

小夜子には、その音が、子宮に響くように感じる。
官能を刺激し、体中の細胞が眼を覚ます。
おとこのひとに、抱かれたくなる……。
「かやんば……」吐息が、漏れる。

それにしても……
カヤンバをゆする美帆の可愛らしさ、愛くるしさは、
同じ女でも、うっとりしてしまう……。
と、小夜子は思う。
2023年8月4日、『無用之用』が、新装開店した。
神田すずらん通りに面した店舗は、以前よりカフェ・バーのスペースが
広くなり、より多くのひとが集える場所になった。
老子の言葉「無用之用」は、「一見、無用に思えるものにこそ本質的な価値がある」
という意味。
このお店も「すぐには役に立たないが、もしかしたらいつか役に立つかもしれない」
という本たちが本棚を埋める。
コンセプトは、変わらない。

そして、店主・淳之介さん、美帆さんのあったかい雰囲気と、
優しい空気感も、そのままだ。

小夜子は、カウンターに腰かけ、オイルサーディンをつまみに
ビールを飲む。
美帆の笑顔に癒されているうちに、あっという間に時間が経つ。
デザイナーとしても活躍し、大学でも教えている多忙な彼女。
でも、いつもふわっと柔らかい空気をまとい、
ひとに不要な圧をかけない。
どうしたら、こんな雰囲気を獲得できるのか……。
小夜子は、しげしげと美帆を眺める。
目が合うと、美帆はニッコリ笑う。
精霊のようだ……。
小夜子は、思う。

小夜子はいつも
アタクカフェとのコラボで作ったクッキーを
お土産に買う。
神保町の交差点の地図が記された、
ここでしか買えない、貴重なクッキー。
カレー味もよかったが、古本まつりのときの
「古本味」も忘れられない。

小夜子にとって、男性との時間は、
無用之用……いや、
生きることに、どうしても必要な、もの。
自分のカヤンバを、揺さぶってくれるひとを、今夜も、待つ。

無用之用

無用之用

URL
お店のHP

『コラボで作ったクッキー持つ、片山美帆さんの手』

変わらず居心地のいい店内。
おしゃれだけど、優しい空間が拡がる。
その空気感をつくるのは、
淳之介さんと美帆さん。
素敵なお二人に会いたいから、
ここにひとが集まるのです。

『無用之用』では
ureshica×山本アンディ彩果
展示・演奏会「美しい夜をあげる」が開催されます。

山本アンディ彩果の展示は、
11月18日(土)から12月2日(土)まで
演奏会は、12月2日(土)
ぜひ、予約ください!