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    2012〜15年掲載

ピエール大場の官能小説「路地裏のよろめき」

ピエール大場著者プロフィール
神保町にある某会社の開発本部部長。長野県出身。かつて「神保町の種馬」と異名をとったほどのドン・ファン。女性を誘うときの最初の言葉は、「美味しいもの食べにいきましょう!デザート付きで」
『NISSAN あ、安部礼司』HP

第六十六話『象の鼻は、筋肉で出来ている』

(どうしてこのひとは、こんなに綺麗なんだろう……)
涼川小夜子は、今日も見惚れてしまう。
向かい合ってビールを飲む、小雪。
そのつぶらな瞳。
マスクをとった瞬間、ドキッとする。
美しい顎のラインと艶やかな唇。
伊藤雪乃という名前ではなく、小夜子はいつも
「小雪さん」と呼ぶ。

神保町、白山通り沿いの『バンコックコスモ食堂』は、
ランチ時の喧騒を潜り抜けたあとだった。
タイ・コーンケン県出身のベテランコックが作るタイ料理は
大人気。
店内に足を踏み入れるだけで、異国の雰囲気を味わえる。
小夜子は、蒸し鶏と炊き込みご飯にあっさりスープが
付いたカオマンガイ、
小雪は、牛すじ煮込み米麺のヌアプアイを
食べている。
二人とも、タイのビール、チャーン。
チャーンとはタイ語で、象のこと。
緑色の瓶のラベルには、二頭の象が向き合ったイラストが
描かれている。

「男のひとの腕……
筋肉質で、太い血管が浮き上がっているのを見ると、
きゅんってなりません?」
小雪にそう訊かれて、小夜子は想像した。
自分を抱いた男たちの筋肉……。
小夜子は小雪の質問には答えず、
「そういえば、象の鼻って、ほとんど筋肉で出来ているって
聞いたことがある」
と言った。
大学教授の砂田に教えてもらったのだ。
「そういえば象が、鼻で、ものすごく重い材木なんかを
運んでいるのを見たことあります」
小雪はまばたきをせず、潤んだ瞳をしっかり見据えて答える。
「5,000キロを超える体重を支えるために、
四本の足は、精一杯。だから鼻が進化した……」
小夜子は続けた。
小雪は、美しく白い顔を伏せ、麺をすすり、牛すじを、
食べた。
艶めかしく、唇が濡れる。
(太くて、固い、象の鼻)
小夜子は、心の中で筋肉が最大限膨張し硬化した様子を
想像して熱くなる。

小雪は、プルオクトという会社の代表取締役。
ネイティブのひとも驚くほど美しい中国語を話す。
その中国語を生かし、ビジネス、そして文化交流に
日夜、奔走している。
もともとは、社交ダンス界のスーパーヒロインだった。
しかし、腰を痛め、心機一転。
興味のあった中国語を学ぶ。それだけではない。
一日15〜6時間、猛勉強して、なんと
難関の北京大学に合格!
7年ほど、中国に暮らした。
北京大学は、2020年の世界大学ランキングで、24位。
ちなみに、東京大学は36位。京都大学は65位だ。

すらっと伸びた体躯。しゃんと張った背筋。
スタイルの良さに美貌、そして知性。
全てを合わせ持つにも関わらず、親しみやすく、よく笑う。
小夜子は、気がつくと、小雪をじっと見てしまう……。
(小雪さんになら、抱かれてもいい……)
そんな小夜子の妄想を知ってか知らずか、小雪は、言った。
「小夜子さん、なんだか今日は、特に色っぽいですよ、ふふふ」

バンコックコスモ食堂

バンコックコスモ食堂

住 所
西神田2-1-13 櫻井ビル1F
URL
店舗HP

バンコックコスモ食堂

プルオクト……社名の由来は
「ひっぱりだこ」。
文字通り、小雪さんは、日本・中国、
いや世界中からひっぱりだこだ。
中国のニューメディア会社外国人研究会と
提携し、中国のマーケティング、 中国進出支援を行っている。
総フォロワー7,000万人以上。
すごい!のひとこと。
神保町は、周恩来ゆかりのお店があったり、
中国文化を感じる本や場所に満ちていて、
大好きだと彼女は微笑む。