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    2012〜15年掲載

ピエール大場の官能小説「路地裏のよろめき」

ピエール大場著者プロフィール
神保町にある某会社の開発本部部長。長野県出身。かつて「神保町の種馬」と異名をとったほどのドン・ファン。女性を誘うときの最初の言葉は、「美味しいもの食べにいきましょう!デザート付きで」
『NISSAN あ、安部礼司』HP

第九十八話『しっぽは、心をかくせない』(みわ書房)

涼川小夜子は、落ち込むと、
あるインスタを見る。

絵本作家・ウツモトマユミのインスタ。
神保町の古書店に勤めながら、作家活動を続け、
ものすごいペースで、絵をインスタにあげている。

最近では、猫のモノマネをするニワトリの絵が
大好き。
ニワトリは、猫にはなれない。
でも、モノマネをする。一生懸命。
その必死ぶりが、可愛くて、痛くて、哀しい。
小夜子は思う。
ウツモトは、きっと、ものすごく優しいひとだ。

ウツモトマユミが勤めるのは、
「こどもの本の古本屋」
みわ書房。
ホームページにも、ウツモトの絵がある。
タイトルは、『小休止』。
癒される……。

「こんにちは、ウツモトさん」
「ああ、こんにちは、小夜子さん」
綺麗な笑顔で迎えてくれた。

みわ書房は、全国でも珍しい、子どもの本だけを集めた古書店。
店主は三輪峻。
もともと古書に興味を持っていた三輪は、30代の頃、喜鶴書房に出会い、
こどもの本のおもしろさに惹かれて、この業界に飛び込んだ。
1978年に神田古書センターがオープンして、5年後の1983年。
三輪が勤めていた喜鶴書房から5階の場所を引き継ぎ、
みわ書房がスタートした。

初めて、ウツモトの絵を見たとき、
小夜子は、欲情してしまった。
見たのは、大胆なタッチで描かれた、猫。
荒々しさの中に、繊細さが宿る。
それはまるで、小夜子が求める、男性の具現化だった。

個展会場。
絵の前で、呆然と立ちすくむ小夜子の隣に立ったのが、
ウツモトだった。

「この絵、どう、思いますか?」
ウツモトが尋ねる。
「そうですね、ごめんなさい、私には、理想の男性に見えました」
正直に、小夜子は答えた。
思わず、笑うウツモト。
こうして、二人の友情が始まった。

「ねえ、ウツモトさん、私はしっぽが欲しいゴリラの気持ちが
ものすごく、わかるの」
小夜子は言った。
猫のしっぽを見て、しっぽが欲しくなるゴリラ。
それは、ウツモトが描いた絵本、
『ゴリラのしっぽ』。

しっぽは、感情を全て出してくれる。
でも、実際の私は、ほんとうの自分を見せることができない。
ゴリラのように。
ただ、体だけが、しっぽのように、
敏感に、反応する……。

小夜子は、そんな思いを抱きながら、
今日も、ウツモトのインスタを見る。

みわ書房

みわ書房

URL
お店のHP

『キンダーブックを持つ、ウツモトマユミさん』

ウツモトさんは、
小学館「第20回おひさま絵本大賞」にて
「ゴリラのしっぽ」で佳作を受賞!
本も出版されています。
とにかく自然体で、飾らない素敵な女性。
一度、『みわ書房』を訪れてみてください!
きっと、ウツモトさんに出会えます。
絵本の話、してみてください。