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    2012〜15年掲載

ピエール大場の官能小説「路地裏のよろめき」

ピエール大場著者プロフィール
神保町にある某会社の開発本部部長。長野県出身。かつて「神保町の種馬」と異名をとったほどのドン・ファン。女性を誘うときの最初の言葉は、「美味しいもの食べにいきましょう!デザート付きで」
『NISSAN あ、安部礼司』HP

第四十六話『手札の順番を変えてはいけない』

「ボードゲーム『ボーナンザ』には、ルールがあります。
まず、手札の順番を変えてはいけない。そして、
カードをプレイするときは、
必ず右端から。カードを補充するときは、必ず左端へ補充します」。
「すごろくや」の、横津麗菜は、言った。
みんなで楽しめる、ボードゲームの店「すごろくや神保町店」は、
神田古書センターの7階にある。
涼川小夜子は、麗菜と、つい最近、カフェで知り合った。
窓辺のカフェで紅茶を飲む麗菜は、日本人とは思えない
整った顔立ちと白い肌を有し、
スポットライトを浴びているように輝いていた。
それは小夜子のナンパだった。
彼女は、男性だけではなく、美しい女性に逢っても、
仲良くなりたいという衝動を抑えることができない。
「よかったら、このあと、飲みにいきませんか?」
麗菜は、『変なひと』に魅かれる。
小夜子の美しい横顔には、いたずら好きな悪魔の影が潜んでいた。
2人は、ワインバーで意気投合して、友達になった。
出会ってから、1時間もかかっていなかった。

今日は、小夜子が「すごろくや」を訪ね、麗菜にボードゲームを
教わっている。
「やあ、いらっしゃい」
店にいた長田諒が、笑顔で迎える。
長田はイケメン・メガネ男子。クールな瞳がIQの高さを物語っていた。
「ボードゲームは、いいですよ。勝った負けただけではない、奥深さが
あるんです。それに、なんといっても、みんなで楽しめる。
電気もバッテリーも必要ない。完全アナログ、エコな世界で」

麗菜が紹介してくれた『ボーナンザ』は、畑に8種類の豆を植えて育て、
売ってお金を稼ぐカードゲーム。
カードに描かれた豆の絵が、可愛くて見入ってしまう。
「植えることができるのは2種類までです。3種類目を植えたければ、
すでに植えている豆を強制的に売らなくてはいけません」

小夜子には、その言葉が違って聴こえる。
「つき合っていいのは、2人までです。3人目とつき合いたければ、
ひとりと強制的に別れなくてはいけません」

再会してしまった昔の男、舎利倉和人。
蝶を追いかけ、世界を飛び回り、小夜子に
「一緒にコスタリカに行こう!」と誘ってきた。
彼の細くて長い指先は、まるで蝶の羽をつかむように繊細で大胆だった。
開かれた羽は、無防備で、哀しいくらい無抵抗。
小夜子は、されるがままに、身をあずけるしか、なかった。
和人に抱かれるのは、何年ぶりだろう…。
以前はまだ、開発されていなかった部位が、触手を伸ばして彼の指を
いざなった。
和人は言った。
「前より、肌がしっとりしている。歳を重ねて、発酵したみたいだ」

「小夜子さん、聞いてます?」
笑顔の麗菜。
「ああ、ごめんごめん、いま、ぼ〜っとしてた。でも、面白そうね、
お豆のゲーム。これ、いただくわ」
「いま、ちょっとやってみますか?」
「そうね、ちょっとやってみようか」
小夜子と麗菜。
2人は、ボードゲームに熱中する。
そこにカードがあるだけなのに、頭の中がゲームのことだけで
満たされる。
それは、至福の時間。頭の中がリセットされた。

スマホが、うなる。
和人からのLINE。「いますぐ、会いたい」。
思わず反応する。体が、うずく。
いま私の畑には、和人以外の種は、育たない。
そんな気がして、スマホをバッグに戻した。



すごろくや

すごろくや神保町店

住所
神田神保町2-3 神田古書センター7F
営業
11:00〜20:00
定休
URL
店舗HP

『ボードゲームを持つ、横津麗菜さんの手』

麗菜さんは、綺麗だ。
フランス人形のように、美しい。
かつて高円寺の「すごろくや」の
お客さんだったそうだ。
縁があって、神保町店で働くことになる。
好きな男性のタイプは、
博識で話が面白いひと。
要潤に似ている旦那さんとは、
働いている喫茶店で知り合ったという。
「お客さんだったんですが、
大学生なのに、オペラを語っていたんです」