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    2012〜15年掲載

11月のお悩み

  とにかく整理整頓が苦手です。会社のデスク周りは資料やファイルが山積みなのは当然としても、椅子を収納する足元も段ボールと防災グッズが塞いでいて椅子が入りません…。
  家でも推して知るべしで、部屋は脱ぎ捨てた衣類、本・雑誌・お菓子の袋(まだ入っている)などが散乱して、母にあきられています。こんな私に手を差しのべてくれる古書はありませんか?

(これでも花も恥じらうOL。彼氏はいます、念のため/27歳)

 


『タキモトの世界』
 久住昌之、滝本淳助

(1992年/太田出版)

なかった事にしてやり過ごす!
そんな生き方もいいのでは…

  まず最初に告白しておこう。ぼく自身も整理整頓、片付け、掃除ということがまったくできない人間です。だから、他人様のそうした片付けられない悩みに対してエラそうに語れる資格はない。ない…のだけど、それでは人生相談にならないので、なんとか答える努力をしてみよう。

  ここに『タキモトの世界』という本がある。これは写真家・滝本淳助さんの不思議な思考や言動を、ライターで漫画原作者でもある久住昌之さんが絶妙な再現力で文字に起こしたエッセイ集だ。26年前に刊行されたもので、初めて読んだときからぼくはそのおもしろさの虜になり、ことあるごとに読み返しては影響を受けまくっている、バイブルのような本だ。

  その中でも忘れられないエピソードが、南伸坊さんが巻末に書いた「解説」の中に出てくる。本来の著者である久住さんの文章でなくて恐縮だけど、とにかく最高なので紹介しておきたい。

  ある日、滝本さんは「パック入りの納豆を食べるときに、1パックだと量が多くて余るよね」という話をしはじめる。その場合どうする? と問われた久住さんは「残りは冷蔵庫に戻す」と答える。そりゃそうだ。普通はそうするだろう。ところが、滝本さんはいちど開けた納豆は臭うからダメだという。そして…。

  「オレの場合はね、まずパックあけて、かきまわして、ネギ、カラシ、しょう油ね、とりあえずカンペキ納豆にしたら、イキナリね、半分メシ一切関係なしに納豆単独でパッと直にいっちゃうワケ、納豆の量をへらす!」
「ああ…」
「で、へらした分なかった事にして、はじめて、納豆でメシ食うワケ」

(P.364より)

  いきなり納豆だけ半分食べちゃって、それは「なかった事」にする。…この考え方!

  初めてこれを読んだときの驚きが伝わるだろうか。なかった事にすればいい。なかった事にすればいい。なかった事にすればいい。これは食べ物のことだけではなく、生活のあらゆる局面に応用可能な、ある種の哲学だと思った。

  それ以来、ぼくは部屋が散らかっていても、とりあえずなかった事にしてやり過ごすことにしている。

  洗濯物でも、本棚から溢れた本でも、とりあえず生活の動線からは見えないところに置く。「片付けなければ…」などと思うからストレスになるのであって、最初っからそれを放棄すればストレスなく快適に暮らせるってもんですよ。

片付けじょうずな人を見て
真似をしてみよう!

  ぼくが片付けをまったくできないというと、皆さんたいそう驚かれる。コレクターのお前が何を言うか、と。お前は朝から晩までエクセルをいじってチェックリストを作ってるような人間ではなかったのか、と。

  実際、マニタ書房の本棚は、商品のジャンル別に分類されていて、しかも、あいうえお順に並んでいる。だけど、それはあくまでも店の売り物だからそうしているのであって、売り物じゃない本、つまり自分の個人的な蔵書は読み終えた順に棚に突っ込んでいるからグチャグチャだ。

  たしかにエクセルでチェックリストは作っているが、整然としているのはパソコンの中の「チェックリスト」だけで、それと現物の「コレクション」は連動していないのだ。

  そんな駄目コレクターでは参考にならないので、もっと優れたコレクターに片付けを学ぼう。

  古本マニアの本棚写真集というのは、昔からいくつも出版されてきたが、今年の2月に刊行されて話題になったのが『絶景本棚』だ。ここには、名だたる蔵書家たちの本棚がずらりと並んでいて圧倒される。

  ひたすら本棚を追加して本を詰め込んでいく人、住まいとは別に蔵書専用のアパートを借りている人、本のためだけに書庫を新築した人など、たくさんの書痴が登場するが、その中の一人。作家・北原尚彦さんの本棚には次のような解説がある。



『絶景本棚』
 本の雑誌編集部編

(2018年/本の雑誌社)

  ミステリー、ホームズ、ヴィクトリア朝関係、古典SF、レアな文庫、古本研究関係、SF、幻想文学とジャンルごとにわけているらしいが、棚の本は基本的に前後二重、ところによっては三重にも並べているため、本棚裏地図というのをパソコンに作って管理している。もっとも棚の前にも本が山積みで、手前の本すら見えなくなってきているので、「今後は表地図も作ったほうがいいかも」と真剣に悩んでいる様子なのである。
(P.116より)

  本棚の地図を作成している! まるでコレクターの鑑のような人である。

  相談者さんが「10分でOK、カンタン片付け術」みたいなハウツー本の紹介を望んでいたとしたら、ぜんぜん違う方向の話になっていて申し訳ない限り。でも、すごい人の本棚を見ると自分でも真似したくなりませんか。














次回もお楽しみに!

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