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    2012〜15年掲載

3月のお悩み

  3月は卒業シーズンということで、私はここ数年、タバコを“卒業”したいと思っています。愛煙家にとっては逆風が吹いてますが、仕事に区切りをつけたときの一服感はなにものにも代えがたいものがあります。
  そうはいってもタバコ代は高いし、体にいいわけないし、妻子からも疎まれて家ではベランダ族。これまで何度も「卒煙」に挑戦したのですが3日ともたず挫折…。こんな私に決定的な禁煙本、ありませんか?

(設計事務所勤務の建築士の男/43歳)

 


『自分の命に放火しないでください』
 崎村泰斗

(2008年/蜜書房)

やめられない人は肩身が狭い。
禁煙はリズムから脱すること

  フルチン(古本珍生相談)もかれこれ57回やってきたが、意外なことに禁煙・断煙の相談というのはなかったね。いまは、公共交通機関はほぼ全面禁煙になったし、飲食店も分煙化が進み、全面禁煙に踏み切った店も多い。マニタ書房がある千代田区なんか、路上さえも全面禁煙だよ。

  また、タバコの値段もだんだんと高騰していってる。そのせいもあって、いまは喫煙者人口が激減していることだろう。しかし、うまくやめられた人はいいけど、やめられない人は非常に肩身が狭い思いをしているはず。駅前の喫煙スペースに肩を寄せ合ってタバコを吸っている人たちを見ると、なんだか同情してしまう。

  ぼくも、かつてはヘビースモーカーだったので、他人がタバコを吸うことに対して文句を言えた義理じゃないのだけど、とはいえ迷惑に感じることもある。先にも言ったように千代田区は路上禁煙だから、喫煙者は吸いたい気持ちを必死に我慢して、飲食店に入った途端にパカパカ吸うんだ。これは困る。

  なぜ、煙がすぐに空へ霧散していく路上が禁煙で、煙がこもりやすい店内が禁煙でないのか。逆じゃないのか、これ? 一部の吸い殻をポイ捨てする不届者のせいで路上禁煙になったのかもしれないが、お外でタバコくらい吸わせてやればいいのになあと、個人的には思う。

  さて、今月の相談者さんも、禁煙がなかなか出来ずに悩んでいらっしゃると。マニタ書房には「喫煙」というコーナーがあって、そこには主にライターコレクションや喫煙文化を(好意的)に紹介した本が並んでいるんだけど、一冊だけ禁煙に関する本があった。タイトルがいいんだよ、『自分の命に放火しないでください』っていうの。

  このなかで、禁煙に成功した安部譲二さんの発言が紹介されている。

  「近頃はタバコ吸う奴のことが、嫌いになった。人間は変われば変わるものだなあ」
  この人が発言すると、実に説得力がある。きっかけはやっぱり「友達や先輩の死」と書いてあったけど、そりゃそうだと感じる。彼らしい《至言》があった。「タバコをやめることはリズムから脱することだ」と断言している。
  (中略)
  彼は「今まで行動の区切りにタバコがあって、それが生活のリズムだった」と。しかしある方法でそのリズムを崩してみると、半世紀もつき合った悪友と絶縁ができた。原理は恐らく既存の「ニコチン脱却法」とあまり違わないと思うが、あれだけ喫煙を礼賛していた男が、とスゴイと思う。

(P.162〜163より)

  具体的にどういう方法だったのかは、この本には書かれていないのだけど、禁煙は「リズムから脱すること」というのは、かつて禁煙を成功させたぼくにはよくわかる。そのことは、後半で説明しよう。

タバコ依存は、肉体の依存か精神の依存か。
そして、タバコは本当に平穏を与えてくれるの?

  多くの禁煙失敗者の例に漏れず、ぼくも何度も禁煙を試みては、三日坊主どころか3時間坊主で終わっていた。寝起きが悪い、食事がまずい、歯を磨くと吐き気がする。そうした理由からタバコをやめたくて仕方なかったのに、どうしてもやめることができずに苦しんでいた。

  そんなとき、友達から紹介されたのが『禁煙セラピー』という本だった。この本はマジ効いた。たった200ページ程度の本を一冊読んだだけで、16歳から(フハハ!)25年間吸い続けていたタバコをピタリとやめられた。まるで魔法のようだった。

  この本には何が書かれているのか? それを語りたいのは山々だけど、それはできない。なぜなら、この本は頭から最後まで一冊通して読むことで、初めて効力を発揮するものだからだ。断片的に紹介なんかしたら、効くものも効かなくなってしまう。

  ただ、それでは話にならないのでひとつだけ言うと、ぼくがこの本から受け取った最大のメッセージは「タバコには肉体的な依存性はない」という真実だ。これには目からウロコが落ちた。



『禁煙セラピー』
 アレン・カー

(1996年/KKロングセラーズ)

  考えてみてほしい。もしもタバコに覚醒剤のような肉体への依存性があったら、禁煙はおろか1時間だって我慢できないだろう。ぼくはヘビースモーカーだったけれど、映画館で映画を見ている2時間は、まったくタバコのことを忘れることができた。寝ているときにタバコを吸いたくて飛び起きることもない。

  つまり、タバコの依存性というのは、肉体への依存ではなく、あくまでも精神的な依存であって、言い換えれば、喫煙者が皆口を揃えて言う「ニコチンの禁断症状があるから、ついまた吸っちゃうんだよねー」というのは“錯覚”でしかないのだ。

  喫煙とは本当に不思議な行為です。タバコを吸う人は皆自分はばかだ、悪いものの虜になっている、と思っています。ただ喫煙によって得られる平穏がささやかな喜びをもたらしてくれると期待してタバコを吸うのですが、考えてみれば、そのような平穏や自信は、タバコを吸うようになる前から誰でも持っているものです。
(P.40〜41より)

  喫煙者は、タバコが切れることで心の平穏メーターがマイナス方向へ下がっていく。ところが一服すると平穏メーターは正常値まで回復する。それを「ああ、タバコがうまい」と錯覚しているのだが、決して平穏メーターがプラス方向へ働いているわけではない。ただ、平均に戻っただけなのだ。

  この本のおかげで、ぼくは禁煙に成功した。禁煙した直後は、酒場でついグラスの右側(これまでのタバコの定位置)に手が伸びてしまうことがあったが、それは「酒を飲んで」「グラスを置いて」「タバコの箱に手を伸ばして」といういつもの習慣が出てしまっただけのことだ。タバコが吸いたいからではないのだ。

  このことに気付けるかどうかは、すごく大きい。いつもの習慣の理由を知り、そのリズムを壊す。安部譲二さんが言っていたのも、きっとそういうことだったのではないか。







次回もお楽しみに!

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