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    2012〜15年掲載

12月のお悩み

 私が多感な独身の頃、ビニ本なるものがブームでして、大いに興奮し、お世話になったものです。昔の名作は現在、古書店で手に入るのでしょうか? 専門店などあるのでしょうか?とくに、松坂季実子という巨乳の方(某大手広告会社に在籍していたことも記憶してます)のビニ本を探してます、どうかご指南ください。

(44歳/妻子ありのフツーの会社員)


『大エロ捜査網』
 松沢呉一

(1998年/青弓社)

古いビニ本を求め、
パソコンを捨て旅に出よ

  ビニ本! わたくしもお世話になりましたなー。しかし、いまビニ本と言って若い人に伝わるのだろうか。
  簡単に言うと、70年代の後半から80年代の後半にかけて流通した特殊なエロ本で、まだヘアー解禁もされていなかった時代に、極薄のパンティで秘部を包み、ほとんど見えてるんだけど当局に対しては「下着をはいているので見えてません!」と言い張り、アダルトショップなどで売られていたもののこと。ビニールに包まれていたからビニール本。略して「ビニ本」という。
  これに対して、アソコが完全に丸見えのものもアンダーグラウンドで流通していて、こちらは「裏本」と呼ばれていた。

   で、相談者さんはビニ本の名作群を探している、と。たしかに全盛期の勢いはすごかったんだよね。たかがビニ本だけど、モデルのよさ、写真のクリアさ、タイトルの良さなどで名作と呼ばれるものがいくつもあった。当時、谷村新司が無類のビニ本好きとして有名だったけど、『昴(すばる)』というビニ本を大事にしているらしいという話をきいて、ぐっと好感度が上がったものだ。

  しかし、現在それらのビニ本を手に入れるのはなかなか容易ではない。
  松沢呉一氏の著書『大エロ捜査網』に掲載されたコラム「エロ本捜査」には、こんな一節がある。

  近所の本屋にエロ雑誌の現況を捜査に出かけた。エロ雑誌がごっそり置いてあり、しかも老婆が店番をやっている店だ。
(中略)
  店内を見渡した第一印象としては、以前に比べると、アダルト・ビデオに寄りかかった雑誌が影を潜めたことか。「オレンジ通信」「アップル通信」を筆頭に、なぜか果物の名前がタイトルにつけられ、「フルーツ通信」とも総称されたAV情報系の雑誌は種類が減り、この本屋での扱いもあまりよくない。
(中略)
  投稿写真系も一時よりは数が少なくなっている。女子高生ものの投稿が摘発されたことによって、青少年(十八歳未満)を被写体にした投稿が厳しくなり、「ニャン2倶楽部」など、ハード系、ヘンタイ系投稿誌がひとり気を吐いているということころか。
(中略)
  また、「ナンパー」など、ナンパ・ハメ撮り専門誌もすでに峠を越えた感がある。
(P201〜202より)

  これは1996年に書かれたものだが、この時点ですでにエロ本全般が、書店で非常に肩身が狭い思いをしているのがわかる。ましてや、表立って売ることのできないビニ本など、一般書店が扱うはずもない。

  神田・神保町には芳賀書店という有名なエロ本専門店があるが、ここが扱っているのは基本的に新刊で、古本はない。古いビニ本を探そうと思ったら、ネットで検索してみるのがいちばんだろう。たまにオークションにも出品されることがある。

  ただ、古いビニ本探しの醍醐味は、やはり古本屋さんで発掘することだと個人的には思う。ビニ本専門古書店というのは寡聞にして聞いたことがないが、エロ本を扱っている古書店では、たまにビニ本も置いてある。ワタシは全国の古本屋さんを訪ねて旅をしているが、店の隅に古いビニ本が何冊か積まれているのを見かけたことは何度もある。だから、まったくないわけじゃないのだ。どうだろう、相談者さんもオールド・ビニ本を訪ねて旅に出られてみては。

ビニ本が見つからないなら
いっそ自家発電で

  ところで、相談者さんは松坂季実子がお好きですか。いいご趣味ですなー。ワタシも彼女は大好きだった。バストサイズは110.7cm。これは1107(イイオンナ)の語呂合わせだそうで、とても夢がある話だ。




『さる業界の人々』
 南伸坊

(1981年/情報センター)


  そんな夢をぶち壊すようで申し訳ないけど、相談者さんはちょっと勘違いをなさっている。それは何かというと、松坂季実子はビニ本のモデルなどやってないのだ。

  ビニ本というのは、一般的なエロ本、グラビア、アダルトビデオなどとは別物の存在で、裏本ほどではないにせよ、それでも表通りを避けてひっそり売られていたものだ。そのような媒体に、松坂季実子のような人気AV女優が出るはずがない。
  AVで撮影したフィルムが何者かの手によって流出し、裏本にされてしまう、ということはあるのかもしれないが、さすがに相談者さんもそれを探そうとしているわけでは……ないよね?

  アダルト業界もいろいろと細分化されていて、門外漢にはよくわからないことも多い。とりあえず、一般の書店で売られている「エロ本」と「ビニ本」との間には明らかな線が引かれていることだけ覚えておこう。

  エロ本業界のアレコレについて考察した南伸坊氏の名コラム集『さる業界の人々』では、次から次へとビニ本を発行して大儲けしている某出版社を訪ねたときの様子を、このように書いている。

  「とにかく、まァ、行ったわけ。マンションのドアあけたらサ、靴がこう、いっぱい脱いであってネ、で机の上やら床に置いたパネルの上なんかに、ゴロゴロ、ゴロゴロ寝てるわけ。そんなに遅い時間じゃないんだけどサ、まァ徹夜、徹夜でやってきて、ちょっとあいた時間だったワケね、奥に唐紙がしまってて、和室があるわけ、で、そん中に明日、早朝の撮影にそなえて、女のコ、さっき毛ェ剃って寝かしてあるっていうんだよね。タコ部屋ですよ、もう……」
(P75より)

  当時の狂騒ぶりが伝わってくる、いい文章です。

  「この人たちのビニ本っつうもんが、かなりユニークですよ、なにがなんだか、よくわかんない。胸にサラミ貼りつけたりさ、そこらじゅうにガムテープくっつけたり、ケチャップはかけるヮ、マヨネーズはぬりたくるヮ、豆腐はぶつけるヮ、ホータイは巻くヮ、生卵はかけるヮって、もうエロもヘチマもないですよ。」
(P75より)

  ビニ本のためのモデルさん、扱いがヒド過ぎて笑ってしまう。

  AVの世界では、顔と名前を売りにして1人で作品に出られる「単体」女優と、汚れモノなど体当たりな撮影をさせられる「企画」女優という棲み分けがあるように、かつてのビニ本にも同様の立場があった。というか、ビニ本はほとんどが企画モデルさんたちのためのステージだった。そこは、松坂季実子さんのようなイイオンナがひとハダ脱ぐような場所ではなかったのだ。

  …と、これじゃ相談者さんが可哀想なので、最後にひとつ提案を。
  いまは画像のレタッチソフトも家庭用プリンターも高性能なものが揃っている。松坂季実子のビニ本が存在しないのなら、彼女の中古AVを集めて、そこから名場面をキャプチャーしてプリントアウトし、自家製の「松坂季実子ビニ本」を作るというのどうだろう。
  タイトルは『1107』で。

次回もお楽しみに!

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