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    2012〜15年掲載

11月のお悩み

  広島カープの黒田弘樹投手の生き様が好きです。世間では"男気"と呼ばれていますが、なかなかできることじゃないですよね。私など仕事もプライベートも、いつも楽なほう楽なほうへと流されていて、"男気"のかけらもありません…。仕事も可もなく不可もなくって感じで、当然彼女もいません。こんな私ですが、少しでも黒田投手のように、強い男になりたいんです!黒田投手の本のほかに、私を覚醒させる本はないでしょうか?

("男気"度0%の中小企業サラリーマン/31歳)

 


『限りなき挑戦 鉄人と呼ばれるオレの野球人生』
 衣笠祥雄

(1984年/旺文社)

不可がないならそれでよし。
ごくふつうでいよう!

  ぼくはいま野球中継をまったく見なくなったので詳しい事情はわからないが、黒田選手ってアメリカでの大金の契約を蹴っとばして日本に帰ってきて、広島カープをリーグ優勝に導いたんでしょ?たしかにこれは、並の男に出来るこっちゃない!永久欠番になるのも当然だ。

  で、永久欠番といえば、広島には他に衣笠祥雄(3)と山本浩二(8)の2人がいる。とくに衣笠祥雄は広島カープの歴史、いや、日本プロ野球の歴史の中でも、群を抜いた強い男として知られる。なにしろ別名が「鉄人」というのだから、カチンコチンである。

  衣笠は、1970年から1987年にかけて1度も休むことなく試合に出場し、2215連続試合出場の日本記録保持者となった。この記録は、1996年に米ボルチモア・オリオールズのカル・リプケン・ジュニアに塗り替えられるまでは、世界記録でもあった(リプケンはその後、2632試合まで記録を伸ばした)。豪快なホームランを打つとか、華麗な守備を見せるとか、プロスポーツの世界ではどうしてもそういう派手さに目を奪われがちだけど、とにかく休まず試合に出場し続けるというのが、いかに凄いことか。なにしろ風邪ひとつひくわけにいかないのだ。

   たとえばある選手が、一年間、全試合出場したとなる。しかしそれはシーズンが終わっても、なんの表彰の対象にもならないのである。二年、三年、五年、全試合出場しても同じである。サラリーマンが無遅刻無欠勤で会社へでたのと同じで、ごくふつうのこととしてすまされる。
表彰にならないがしかし、どんな選手もプロであるならば、この全試合出場に意欲的である。試合にでないことが、なにか悪いことをしたように罪意識を感じさせるのだ。プロ野球選手として多額の給料をもらっているのに、試合にでないのは申しわけない。そんな気がするのだ。

(P.149より)

  著書『限りなき挑戦 鉄人と呼ばれるオレの野球人生』の中で、衣笠はそう語っている。本当に立派な人というのは「どうだオレ、休まず試合に出ていてエライだろう」なんてことは言わない。あくまでも「ごくふつうのこと」として試合に臨む。休んだら「申しわけない」とすら思う。

  相談者さんは、仕事に関しては「可もなく不可もなく」とおっしゃる。不可がないならそれでいいじゃないですか。ことさら張り切って"男気"とか求めずに、ただ淡々と日常をこなす。そこからスタートすればいいんだよ。…で、彼女がいないことまでは面倒見きれん。

「しんがりを守り続ける」
ことにも意味がある

  世間一般のイメージでは"強い男"と思われていないだろうけれど、ぼくがこういう人こそが"強い男"なのだ、と尊敬してやまない人物を紹介しよう。

  ザ・ドリフターズの高木ブーさんである。

  元々はジャズ、カントリー、ハワイアンなどのバンドで米軍のキャンプ回りをしていたが、いかりや長介にスカウトされて1964年にドリフターズに加入。その太った外見から芸名を「高木ブー」と名付けられ、以後、のろまだけど愛嬌のあるキャラクターで人気者になっていく。



『第5の男 どこにでもいる僕』
 高木ブー

(2003年/朝日新聞社)

  ドリフといえば、まず一番人気の志村けん、リーダーのいかりや長介、次いで加藤茶といった顔を思い浮かべるが、それでも高木ブーの存在を欠かすことはできない。野球が4番打者だけではうまくいかないように、コメディだって切れ者だけでは成り立たないのだ。

   ブーさんは自身の半生を回想した著書『第5の男』で、こんなことを言っている。

   バンドマン時代にはリーダーやメインボーカルまで経験し、常にスポットの中心近くにいたような気がしたのに、気がつけば、僕はドリフターズのステージの一番隅っこに立つようになっていた。だけど、それでよかったんだと、僕は思っている。
  そう、僕はドリフターズのジョージであり、リンゴ。ビートルズにリンゴ・スターなんていらない、なんて誰も言わないでしょ。
  僕もドリフの中で、そういった存在であり続けてこられたんじゃないかという自負が、これでもある。40年間しんがりを守り続けてきたことにも少しは意味があったのかな、と。
(P.113より)

  筋肉少女帯の『元祖高木ブー伝説』という曲がある。失恋した主人公が、何もできず無力な自分のことを「まるで高木ブーのようだ!」と繰り返し繰り返し叫ぶ悲しい歌だ。最初はこんなレコードを出しやがってけしからんと、発売中止になったりしたが、のちに、それを知った高木ブー本人から許可がおり、正式に発売されたという。

   高木ブー、超いい人!

   自分をリンゴ・スターやジョージ・ハリスンに例えるのは、さすがにズーズーしいと思うが、ま、そのくらいの図太さがあってこその彼のポジションなのだろう。相談者さんも、そんくらいの気構えでドーンとしていたら、きっとそのうちいいことあるよ。

次回もお楽しみに!

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