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    2012〜15年掲載

10月のお悩み

  「大学受験に備えて本や新聞をしっかり読むように!」って、親や塾の先生から言われるんですけど、アタシ、活字がダメなんです。「読まなきゃなぁ◯」とはわかってても長続きせず、すぐ投げ出したくなります。そんなアタシなので、語彙が乏しく、日常会話でもヘンな日本語使ったり、相手のゆってる意味がつかめなかったりします。これから先、ますます自己中な人間になってくようで怖いので、活字アレルギーを治す手っ取り早い方法はないですか?

(来春の大学受験生/女子高校生18歳)

 


『志ん生古典落語1 火焔太鼓』
 五代目 古今亭志ん生

(2000年/弘文出版)

言葉って、おもしろい
そこから始めよう!

  いきなり相談者さんの周囲の人たちを否定するようで申し訳ないけれど、「本や新聞をしっかり読むように!」っていうのが、そもそもよくない。この場合の「本」は教科書や参考書のことだと思うけれど、そういうものや新聞を読むことばかりが勉強じゃない。小説だって活字だし、なんなら漫画の本にだって活字は含まれている。そして、そこから学べることはたくさんある。

  受験を控えているからそう言われたということだけど、本当はもっと以前、小さい頃からも同じようなことを言われ続けてきたのではないかと推察する。だから活字が苦手になってしまったのだろう。でも、そのことに対する不安を相談者さんはちゃんと感じているようなので、そこはぼくは安心した。あと、語彙(ごい)って言葉を知ってるのもエライ。

  語彙が乏しいことと「自己中」とは関係ないと思うけど、やっぱり知らないよりは知っていた方がいい。語彙は少ないより、豊富な方がいい。しかし、いまから活字アレルギーを直せたとして、それで来春の大学受験に向けた勉強が間に合うとは到底思えないので、まあ、そのことは一旦わきに置いといて、ここでは相談者さんにいかにして「言葉」を好きになってもらうかだけを考えよう。

  まず思いついたのは「落語」だ。ぼくは江戸の古典落語だけが好きなので、それに限定した話をさせてもらうが、落語というのはいまから200年以上も昔のお話を江戸の方言で話すものなので、かなりヘンな言葉が飛び交う。それがたまらなくおもしろい。お話の内容を楽しむのもいいけれど、それ以前に、まずは話者の語り口のおもしろさから興味を持つだけでも十分だと思う。

   自分の女房の名前(なまい)ももう満足に呼ばないのがあるねェ。
「(声を張って)やァいッ!」
なんてな…。
「やァい」といって呼ぶ。とこっちのほうで、
「(声を張って)なんだよォおォいッ!」
なんて…。
「やいと呼ンでおいと答えて五十年」なんて…やいおいの待つ〔相生の松〕ってえくらいなもん…
これァどうもァァ縁は深いんでございまして、ええ。

(P.79より)

  落語というのは口演するものだけど、それを活字に書き起こした本がたくさん出版されている。いま引用したこれは古今亭志ん生の『志ん生古典落語1 火焔太鼓』に収録されている「風呂敷」という噺(はなし)の一節だ。女子高生には何の話をしているのかわからないかもしれないけど、そのリズム感というか、口調の楽しさくらいは伝わるのではないだろうか。

  相生の松というのは雌株(めかぶ)と雄株(おかぶ)の2本の松が寄り添うようにして生えている状態のことで、お互いを「やい」と「おい」で呼び合う夫婦の仲の良さを洒落で表現しているわけだ。

  どうだろう、大学受験からどんどん話が遠ざかっていってるが、とりあえず「言葉っておもしろいナ」とは思っていただけただろうか?

日本語を飛び越え
英語を学んでみる?

  頭のカタイ老人は、ネット世代の言葉の乱れを嘆いたりするけど、ぼくは心配してない。というか、むしろ楽しんでいる。だって、言葉なんて永遠不変のものじゃないでしょう?先ほどの志ん生の落語だって、解説しなかったら何言ってるかよくわかんなかったりするわけで。

  相談者さんは、正しい日本語というものにこだわりすぎる(自分ではそのつもりがなくても、周囲からそう強制される)から、それになかなか対応できないでいる自分を「活字アレルギー」だと思い込んでしまっているのではないだろうか。

  でも、そんなことはないよ。少なくとも、自分の悩み事を頭の中で整理して、それをパソコンかスマホかはわからないけど、キー入力してメールに書いて編集部まで送ってくれる。それができる人は全然活字アレルギーなんかじゃない。ただ文章の上手い下手があるだけだ。



『やさしい海外文通』
 熊澤佐夫、F.E.クック

(1980年/旺文社)

   そして、文章の未熟さは練習すれば上達する。これは間違いない。文章力をアップさせるためには、たくさん本を読むのはもちろん大切なことだが、読むだけでは十分でない。やっぱり自分の手で書いてみないとね。

   文章の書き方を教える本は無数にあるが、プロの作家を目指すわけではないなら、とりあえずは日常的な文章の書き方を教える本など読むといいかもしれない。

  そういえば、先月は別の方の相談で『若い女性の手紙の書き方』なんて本を取り上げたけど、相談者さんは、いっそのこと日本語を飛び越えて英語に力を入れてみてはどうか。これから先は、日本語よりも英語力が重視される世の中になっていくはず。

   はい、というわけで『やさしい海外文通』をご紹介します。この本にはいい例文がいっぱい載っていて楽しいよ。

   私の名前は良枝です。良は日本語で"よい"、枝は"えだ"の意味です。だから私は"良いえだ"です。
My first name is Yoshie. "Yoshi" means "good" and "e" means "a branch" in Japanese. So I am "a good branch."
(P49より)

  海の向こうのペンパルに対して何を言ってるのか。

   国語で満点をとるのはたいへんむずかしいのです。
It is very difficult to get full marks for Japanese.
(P122より)

   私は優等生ではありません。私の成績は平均4です。
I am not an honor student. My grades are B average.
(P123より)

   この3月、私は入試に失敗して、東京の予備校であと1年勉強しなければなりません。
This March, I failed in the entrance examination preparatory school in Tokyo.
(P125より)

   えーと、なんか、スマン…。

次回もお楽しみに!

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