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    2012〜15年掲載

8月のお悩み

 こんにちは。いつも「古本珍生相談」を読ませていただいています。読者からの相談に古本(それも珍書で!)回答するという無茶なアイデアに、毎度びっくりさせられたり笑わされたりしています。
 それで、私のことではなく、とみさわさんのことをお尋ねしたいんですが、読者から寄せられる相談に古本で答えるって、よく考えたらなかなか難しい仕事ではないかと思うんですよね。毎回、どんなふうにして回答を導き出しているのか、フルチン創作の秘密を教えていただけませんか。

(30代/来月からフリーライターの元編集者)


『俺んち、ヤバい!?』
 哀川翔

(2011年/東邦出版)

相談からキーワードを抽出し
該当するジャンルの本を漁る

  いや、よくぞ聞いてくださいました。フルチンの秘密ね。これ、最初に企画を思いついたときはいいアイデアだと思ったんだけど、いざ連載を始めてみたら、とにかく手間がかかることがわかって、いまは毎月しめ切りが近づくと後悔の連続よ。

  なぜ手間がかかるかというと、皆さんから寄せられる相談が「真剣な悩み」ばかりだから。なかなか結婚に踏み切れないとか、受験や就職への不安があるとか、そういう人生を左右する選択に対して、ぼくのようなテキトー人間がアドバイスしていいのだろうか? それも古本で!

   当然、いい加減に答えるわけにはいかないので、回答に使う本もじっくり探すことになるよね。そこにいちばん手間がかかる。原稿を書くのはそんなに大変じゃないけど、どの本で答えるかを決めるのに、いちばん気をつかうんだな。

   では、ここで毎回どんなふうにして原稿の構成を立てているのか、シミュレーションしてみよう。

  たとえば「わが家には4人の子供がいるんですが、なかなか言うことをきいてくれません。この子たちを捨てて逃げ出したくなるときもあります!」という悩めるママさんからの悲痛な叫びが寄せられたとしよう。その場合、「子育て」「家族」「親の愛」といった切り口をキーワードにして、使えそうな古本を探すことになる。

  いま、うちのマニタ書房の店頭には、だいたい4000冊の在庫がある。いくら店主のぼくでも、これをすべて読破しているわけがないし、ましてや中身を把握なんかできているはずがない。だから、先ほどのキーワードを頼りに、該当しそうなジャンルを見ていく。うちの店でそれっぽいジャンルというと「極端配偶者(国際結婚)」か、「ハウツー本」か、「不良(不良って案外と家族仲はいいからね)」か…。

   で、それよりもピッタリなジャンルがあることに気づく。「大家族」だ。ぼくは昔から大家族ものって大好きで、それに関する本もいろいろ集めてきたんだよね。それらを次々に抜き出して、まずは目次を見ていく。そこで、寄せられた相談に答えられそうなトピックを探していくんだ。

   たとえば、子沢山で知られる俳優の哀川翔さんが書いた『俺んち、ヤバい!?』なんて本がある。パラパラとめくっていくと、目次に「第3章 親も努力を」という項目があった。これはテーマに合いそうだ。早速、そのページを読んでみると、講演会でファンから言われた「子供がなかなか言うことをきかないんですけど…」という相談に、自分の経験を例にして答える一節があった。

   そもそも大人が号令をかけないから、子どもがなんでも勝手にやるようになるんだ。
「ご飯食べなさい」
「風呂に入りなさい」
 当たり前のことだけど、これは大事だよ。
(中略)
 それをやらないのは大人がダラダラしたいからだ。家屋に向けるはずの時間を自分勝手な時間に使いたいから「うちは自由だから」なんて言ってダラダラしようとしてるだけ。ビシッとタイムテーブルを決めて家族全員が団体行動をすれば、ダラけた子どもにはならない。
(中略)
 まず大人が変わること。そしたら子どもはちゃんとすると思うよ。

(P57より)

   さすがアニキ、いいこと言う。もうこの記述を見つけただけで、原稿の半分は書けたも同然だ。

マジメとバカの
バランスをとるように

  こうして回答に使える本を探すわけだが、しかし、ここは「古本珍生相談」である。略してフルチン≠ニ言ってるような連載が、真剣に回答をするだけでは、ナンセンスの神に申し訳が立たない。そこで、後半ではあえてハズした回答をするなどして、マジメとバカのバランスをとったりする(前半と後半は逆の場合もある)。

  「子沢山」「大家族」といえば、カルガモ一家なんてのが話題になったよなー、あれを採り上げた本もたしか仕入れておいたはず…と、「どうぶつ」ジャンルの本を見ると、ちゃんと棚にささっていた。『カルガモ一家の愛情物語』である。

  例によって目次を見ると、第2章に「落とし穴」という悲しげな項目がある。ああ、道路の側溝に開いた穴から子ガモが下水に落ちたなんてニュースを見たことあるぞ! あれは非常に可哀想だったし、親ガモからすれば都会で子育てをする難しさの最たるものじゃないか!



『カルガモ一家の愛情物語』
 東京新聞 写真部

(1986年/PHP研究所)


  ってなわけで該当の箇所を読んでみると、こんなことが書いてあった。

  子ガモたちは次々に上陸していくが、小さな二羽はどうしても上陸出来ない。と、母ガモがその方に気をとられているうちに、先に岸に上がっていた二羽が、また昨日と同じように溝に落ちてしまった。
 約十五分、脱出させようとしていた母ガモの動きが急に変わった。何かある─。
 木立の上にカラスが二羽やって来て、溝に落ちた子ガモたちを狙っているのだ。やがてカラスは急降下。接近してくるのを待ち構えていたように、母ガモはスイと飛び立って空中戦に。カラスは十五分間に三回襲って来たが、その度に「グエッ、グエッ」「カァー、カァー」と、せめぎあう声が明け方の静かな空気を揺るがす。やがて母ガモの懸命な防戦に根負けしたのか、カラスはついに飛び去っていった。

(P71より)

  こうした記述から何を読み取って、どう回答に活かすか。さらに、どのように前半とのバランスをとるか。そのあたりはぼくの秘伝の部分なので、ここでは明かさないでおこう。

  というわけで、ここでお知らせです。来たる8月22日、江戸川区立松江図書館にて講演会をやらせていただくことになりました。題して「出張!古本珍生¢樺k 〜本の数だけ人生はある〜」。古本の楽しさをお話しするとともに、ライブでフルチン≠やってみようという試みでもあります。


    出張!古本珍生¢樺k 〜本の数だけ人生はある〜

    講師:とみさわ昭仁(特殊古書店「マニタ書房」店主)
    校條 真(合いの手係:「ナビブラ神保町」編集長)
    日時:8月22日(土)19:00〜20:30(18:45開場)
    対象:大人の方 30名
    会場:松江区民プラザ(松江図書館の2階)
    受付:8月2日(日)16:00から電話・窓口にて受付


次回もお楽しみに!

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