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    2012〜15年掲載

Ad-libooksの魁!就職活動:「世界一の本の街」にある古本高校。卒業が決まったAd-libooks。今度は就職活動!いざOB訪問へ!!

前シリーズ古本高校編はこちら!!

Ad-libooksとは
超名門・古本高校で出される過酷な指令をクリアするために組まれたテツヲ(左)とユキヲ(右)によるユニット。無事卒業が決まり、就職活動がスタート。憧れの(?)古書店主達に、「書棚の哲学」を直撃します!

OB訪問7 日本書房・西秋ユキヲさん
後編

前編はこちら!!


神保町と水道橋の中間にある国語国文学専門書店、日本書房。ユキヲの風貌とは裏腹な真面目なお店!

学ランは封印して、
ミスター古本屋≠ノなる!

テツヲ ちょっとユキヲさん自身の商売の話も聞いておきましょうか。古本屋っていう印象はあんまりないけど。

ユキヲ そうなんだよ。ナビブラでも「神保町ミュージアム」みたいな真面目なコーナーには出してくれなかったし(笑)

テツヲ いま、面白い本とか扱っていきたいものとかありますか?

ユキヲ 最近は明治前半の本が楽しいね。『神保町ガイドブックVol.3』で本の歴史を紐解くような企画をやったんだけど、ちょうどその時代が混沌としているんだよ。江戸期を引きずりつつ近代化を進めている頃で、廃れるものと新しいものがものすごいスピードで展開している感じ。本の形態も使われている文字も定まっていない、すごく魅力的な時代なんだ。

テツヲ いま40歳でしたっけ?これから10年先の展望とかありますか?

ユキヲ もうすぐ41だよ。20代は古本屋としての単純な修行期間で、30代はこの先10年で実行することのための準備期間っていう感じだった。
 で、これからはちょっとプロフェッショナルに戻るというか、古典の世界に深く潜ろうと思う。商売の方向としてはっきりしているのは、わかりやすく言うと、「高くて貴重な本を売っていく」ということだね。それでゆくゆくはミスター古本屋≠ニ呼ばれるような、名を残す本屋になりたい。
 自分のところに来れば貴重な和本が必ずあるとか、この世に1冊しかない本を扱うとか、そういう功績を残したいんだよ。

テツヲ 「ミスター古本屋!」ちょっと意外だなあ。だけど、もしそういう人が間口を広げるための行動をする──例えばですけど、学ランを着るとかしたら最強じゃないですか!

ユキヲ 学ランはもう着ない! でも、本当にそう思う。貴重な本を扱うことと、古本好きを増やしていくことと、どっちにおいても功績を残せば、伝説的な古本屋さんになれるかな。この10年間に店以外のところでいろいろやってきたのは、その準備っていうかさ。それをやったのは反町茂雄さんが代表的かな。うん、反町さんは理想かもしれない。

テツヲ ユキヲさんの面白い、というか、これは説得力があるということだと思うけど、学ランとか着たりしながら、実は「和本」っていう、わかりやすい「本」のイメージとは一番離れたものを扱っているところですよ。オシャレな古本屋がオシャレな媒体と組むとか、そういうのは単なる商売じゃんとしか思わないもん。本自体のことは別にどうでもいいんでしょっていう。

ユキヲ 相変わらず、オシャレ古本屋が嫌いなの?

テツヲ 別に嫌いじゃないけど。僕が古本屋さんの言葉で一番感動したのは、「オシャレな古本なんかない!」ですよ。


和本から新刊まで幅広く扱う店内。源氏物語関連で数百冊はある書棚は、見ているだけでゲシュタルト崩壊≠オてしまう! 一見の価値あり!

何事もバランスが大事!
……で、ズバリ結婚のご予定は?

ユキヲ そのあたりについてはノーコメントだけど、でも間口を広げるっていうことには、「和本は本であること」を一般常識にしたいっていう想いもあるんだよ。美術品みたいなイメージが強いし、日本の本の歴史を辿っていくときに、なぜかグーテンベルクに行っちゃうんだけど、それが癪でさ。それとオレは和本も今の本も同じで、線引きする必要はないと思ってる。もちろん、取り扱い方の違いはあるけどね。
 「和本を扱いたい」っていう古本屋も結構いるけど、すごく特別視している。もちろん希少性とかを含めた価値の差はあるにせよ、本はなんで存在するのか、記録とか鑑賞とか理由はいろいろあるけど、作ってきた人の気持ちや意思は普遍なんだよ。 こういう姿勢は、老舗の人にしてみれば「せっかく築き上げた価値を軽んじている」という風に見えているとは思う。もちろんそうじゃないことは知ってるつもりですけどね。

テツヲ じゃあ最後に、ユキヲさんの考える、古本屋に一番とって大切なことはなんですか?

ユキヲ たぶんテツヲと初めてちゃんとしゃべったときにも言ったけど、やっぱり「バランス」だよ。古本に対する愛が強すぎても、利潤を追求しすぎてもダメ。前者はこの時代にはやっていかれないし、後者は、商売としては継続できるのかもしれないけど、なんか好きではない(笑)。
 まあ、だからテツヲは古本屋にはならないほうがいいんじゃない? 「こんなどうしようもない本を扱わなきゃいけないのか!」って、きっと苦しむことになるよ。

テツヲ そうですね、やめておきます!って、あれですか、就職活動のオチをつける感じですか。

ユキヲ でもどう回収するのよ。しかも今回いつもより長いだろ。オレなんか偉そうなこと言ってるし。

テツヲ 「ミスター古本屋にオレはなる!」とか、熱いこと言ってますよ。ところでユキヲさんは、相変わらず「古本屋は自然淘汰派」なんですか?

ユキヲ そう、テツヲにも何度も話したけど、この連載が始まるまでは完全な悲観論者だったんだよ。でも悠久堂の諏訪雅夫さんが、「書籍業界なんて、所詮は2兆円以下の産業でしかないのに、面白くて情熱的な人材が沢山いるのは不思議だ」と言っていて、本当にその通りでね。
 利潤は追求するけど、「本が好きだから」「後生に残したいから」っていうモチベーションの高い人が集まっている。古本屋だって、この連載で多くの人に話を聞いてみたら「厳しいだろうけど」って、必ず「けど」って前置きしてから自分の目標を語り始める。
 これからますます苦しくなるのは明らかなのにね。「みんな大丈夫か?」と思いつつ、でもそこに心を打たれたというか、人材的に悲観する要素はまったくないなと、考えを改めた部分があって、この連載をやって良かったと思うよ。



神保町は永久に不滅です! 古書店の皆様、取材協力ありがとうござました!

テツヲ  そう言ってもらえると、僕もうれしいです。じゃあ本当に最後に、この質問でキレイに終えましょうか。ユキヲさん、ズバリ結婚のご予定は?

ユキヲ ねえよ!!!!!!

読書部の連載

とみさわ昭二の「古本“珍生”相談」 (連載中)

Ad-libooksの魁!就職活動 (2012年5月〜2013年6月)

Ad-libooksの魁!古本高校 (2011年6月〜2012年4月)