ナビブラ神保町 2012年8月特集
ロンドンオリンピックに、社員選手の室伏広治、寺川綾の2名を送るミズノ。二つめの金メダルを狙う室伏広治選手の近況、期待を、ミズノの陸上チーム「ミズノトラッククラブ」の中村哲郎監督にお話しを伺いしました!
ミズノトラッククラブ監督、中村哲郎さん。ご自身も陸上選手だった中村監督。「ぜひ、ロンドンの会場で金メダルをかけてほしい」と室伏選手への期待を語られます。
中村哲郎さん
1955(昭和30)年生まれ。短距離選手として活躍。ミズノ入社後、陸上競技のプロモーションを担当し、TOP選手の発掘、選手の育成などに携わり、1989年ミズノトラッククラブが設立され、91年から監督をつとめる。同クラブから延べ64名の選手がオリンピック、世界陸上に出場しています。
金メダルの期待がかかる日本選手が数多くいる中、その筆頭的な存在と言っても過言ではないのが陸上競技・ハンマー投げの室伏広治選手。前々回のアテネで金メダルを獲得し、連覇のかかった北京では5位に終わった。熟練期を迎えた室伏選手の2つ目の金メダルの可能性は? 長年ミズノトラッククラブの監督として、室伏選手を見てきた中村哲郎さんに室伏選手の大会直前の近況を伺いました。
「体調としては悪くないと思います。今年は、日本選手権しか出場していないわけですが、やはりオリンピックという大目標達成のための日本選手権を無事に乗り切ることが目標だったんです。その中で、連勝記録も更新でき、無事に終えてよかったと思っています。今は、8月5日の決勝に向けていかにピークを持っていけるか、合わせるか、その段階に入っています」
中村監督と室伏選手との関わりが長く、室伏選手の父重信さんの時代に遡ります。長年ミズノの陸上競技に携わってきた中村監督は、幼いころから室伏選手を見てきました。
「身体能力という意味では、お父さんより彼のほうが優れていることは間違いないでしょう。そして何より、ハンマー投げとの出会いが早い。もちろん、そこに父親という存在があったからですが。ただ、若いころの彼は、身長は高くても全体的に細く華奢だった。だから私はハンマー投げよりは、短距離など別の種目へ進むんじゃないかと思っていたんです。現に100mでも10秒台で走れる俊足の持ち主だった。ハンマー投げに特化して秀でていたわけではなく、スポーツ全般にわたって万能だった。でも、彼は最終的にハンマー投げを選んだ。それは父親の姿を見て育ったことが大きかったと思いますよ」
室伏選手がハンマー投げにしぼって本格的にスタートしたのは高校3年のときだったといいます。世界的なレベルで闘うアスリートとしては遅い年齢であったと言えのかもしれません。血の宿命というほどの大仰なことではないにしろ、室伏選手の中では数多くの競技を重ねるなかで、自分が最終的に着地する種目は、ハンマー投げという気持ちだったのかもしれません。
ミズノ東京本社エントランスに設置された、室伏選手の等身大(?)の社員パネル。遠くを見据えた目ヂカラに、圧倒されます。室伏広治選手
1994年アテネオリンピック・ハンマー投げ金メダリスト。父は同じハンマー投げ選手であった(現コーチ)の室伏重信さん。幼少のころから陸上に親しみ、高校から本格的にハンマー投げを始める。以後父の持つ日本記録をつぎつぎに更新。2000年シドニーがオリンピック初参加。ハンマー投げ界のトップに躍り出る。ロンドンオリンピックでは、2つ目の金メダルに挑みます。
今回2つ目の金メダルを狙うにあたり、室伏選手の課題はどこにあるのでしょうか。
「彼は今年、37才。厳密に言えば、37才と10カ月でこのロンドンオリンピックを迎えます。北京のときは、アテネの延長線上として筋力レベルをアップしていくことができた。しかし、今回は“加齢”という新しい敵と闘わなくてはいけない。
一口に加齢と言ってもアスリートにとっては、大変に大きな壁でもある。故障しやすくもなれば、疲労も蓄積しやすく、取りにくくなる。それをどう克服しながら、競技レベルを維持、向上させるかが今回の最大の課題だったと言ってもいい。
記録は、技術レベルが同じならば、筋力の向上とともに伸びていきます。しかし、今の彼は、筋力をのばして記録を更新するというアプローチではなく、現状の筋力をいかに効率良く使う技術の向上が、記録更新のカギとなります。
そのためにどういうことをしたらいいか。それをサポートするチーム態勢を編成していかないといけなかった」
今季、室伏選手はアメリカに拠点を置き、コーチ、トレーナー、栄養管理のアドバイザーなどを含めたスタッフのもとでトレーニングを積んできました。盤石のチーム態勢の中で、体調のピークを8月5日というピンポイントにフォーカスすることがいかに難しいことであるか、と中村監督は力説します。
「やはりオリンピックは特別なんですよ。注目度がほかの大会とまったく違う。全世界が注目する。そこにいかにピークを持っていくか。それは大変なことですよ」
中村監督はさらに、こう続けます。
「いかに、通常の生活の流れの中で大会を迎えられるかが大切だと思います。オリンピックはさきほど申したように、注目度からしてほかの大会と違う。マスコミの報道もヒートアップする、周りも大騒ぎになる。選手たちには、さまざまなオリンピックならではのプレッシャーが多くかかってくる。その中で、いかに平常心を保ち、全てを普段通りに保つことができるか。それが要と言えるでしょうね」
周囲の期待は、アスリートにとって避けられない「障壁」と言えるかもしれません。しかし、過去もそれらを背負って闘い続けてきた室伏選手にとっては、ここロンドンもまたひとつの通過点であるのかもしれません。
「彼は、アテネの金メダリストです。ただあのときはあとになって金メダリストになった。もちろん正真正銘の金メダルではあるんですが……。願わくば、今回はロンドンの会場で金メダルを手にしてほしいと思いますね」
中村監督の思いは、室伏選手を応援するすべての人の思いでもあります。
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