第50回神田古本まつり 想い出ノート
水道橋博士さん

神田の異常な愛情

  古本屋は厳しい状況が続いている。売上が減っている、来客数が減っている、などとネガティブな話が蔓延している。この業界でもうしばらく働こうと考えている僕にとって危機感は膨らむばかりである。が、それに対しての打開策のアイデアは一向に膨らまない。
  そんな矢先、ナビブラ神保町の秋山女史から「水道橋博士が古書店を作ったら…」という、古本まつりの企画があがってくる。幼少のころより「何かオモロイことはないかなあ」と四六時中考えていた僕にとって、このような楽しい企画は大万歳だ。博士が大変な読書家であること(ご本人は謙遜されるが)、その造詣の深さが老若男女に支持されていることは、僕もいち博士ファンとしてよく知っている。「神保町の古本屋として、この街の魅力を伝えたい。そして古本屋がもっている情報量の凄まじさと、書籍に対する異常な愛情を知っていただきたい!」という僕の思いに、まさにピッタリの企画である。神保町のPRのためには、テレビというメディアで活躍している人の協力が必要不可欠であり、多大な影響を及ぼす人の起用により、効果的なプロモーションが出来るとかねてから思ってきた。今まで古本の世界に関心がなかった層への入口としても、新しい人選や企画が必要で、そこに意欲的に取り組みたいと思っていた。こうして、風讃社というプロの制作集団と共に、僕も動きだした。
  普段から秋山女史に「ハゲ」呼ばわりされている僕の役割は、制作現場の良い雰囲気作りと、進行が滞りないよういいパスを出すことだ。と思っていたら、「書籍監修」なんていう大役をつけられ、リストアップされた本を収集すべく、日夜古書店を駆け回った。さすがに博士のアンテナは幅広く、マニアックかつ奥が深い。探すのに苦労した本も多かったのが事実。意中の本がみつかると「この企画、神様も応援しているんだぁ」と嬉しくなる一方で、本が見つからず「神様に見放されたぁ」と孤独感で消沈する日々を多く過ごした。協力してくれた古書店の皆様には大感謝である。なんとか時間ギリギリで揃えることに成功し、取材時に並べて、博士が「すごい!オレん家の本棚じゃん!!」と一言。目頭が熱くなる瞬間であった。
  この企画を通じて、本の世界の無限の可能性や面白さを再認識することが出来た。「世界一の本の街・神保町」は常に最新で最大で最高という高みを目指す宿命なのである。その一員として、今後も「本への異常な愛情」を、神田で注ぎ続けよう。

博士色紙

 

▼公式目録『古本』巻頭特集
「もしも水道橋博士が古書店を作ったら…」
 
古本

 

▼ロケハン時のモデルを務めた
日本書房 ユキヲ氏(プロピア中)
 
ユキヲさん

▼連動の展示イベント
『水道橋博士の御茶ノ水古書店!』

2009年10月27日〜11月3日
於東京古書会館2階展示コーナー

 

 

 

博士布教活動のようなもの?

  我が家の本棚と、博士さんの本棚はとても似ている。それもそのはず。博士さんが「おもろ!」と薦めた本を、片っ端から読んでいるのだから。吉田豪もターザン山本も康芳夫も、博士の発言を通して知り得た。ついでに言えば、旦那と意気投合したきっかけは林由美香だ。博士さんが読書の楽しみを教えてくれたおかげである。だから、私は神田古本まつりで発行される『古本』で、ぜひ博士さんにインタビューがしたかった。
  『古本』の版元である神田古書店連盟のユキヲ氏(日本書房)は、禿げ対策に散財しているのに、今ひとつ効果がない。そうだ、彼に、博士の育毛記録が書かれた著書『博士の異常な健康』をプレゼントして、ファンにさせちゃえと考えた。ら、すでに持っていた。「あたりまえじゃん!古本屋には博士ファンは多いんだよ。○○書店の××は浅草お兄さん会のチラシをスクラップしてるし、△△書房の××は東スポの博士記事を大切に保管してるし」。
  実に話しが早かった。博士さんも快く取材を受けてくださり、にわかに神田が博士づく。特集主旨は、「世界一の古書店街・神田神保町で、水道橋博士に因んだ本を集めて、誌上博士古書店をつくろう」というもの。なのに、半分ぐらいはスタッフ達の私物を持ち寄るという状況。「神田に博士さんを迎える日の為に、私達は出会ったんだね」と、勝手に酔いしれる信者達の図。
  わがナビブラと同じ会社で作っている育児雑誌『たまひよこっこクラブ』で、博士さんは04年から06年の二年間、連載をされていた。今回の取材ではお子様の武君と文ちゃんも同行してくださり、「武君小さかったのに。文ちゃんは生まれたばかりだったのに。大きくなったねえ!」と親戚の叔母気分で対面。親子スリーショットが誌面を飾ったことも嬉しかった。
  ある日、「今年の古本まつりで、博士が表紙を飾るらしい!」との噂を聞きつけたファンの方から「こっこクラブの連載、当時読めなかったんです」との声が届く。ならば!と、連動イベントで、そのコピーファイルを設置。また、『古本』に載せきれなかった数々のエピソードも、補足メモとして展示した。会場内で、床に座りこんで熱心に読みふけるお客様の背中。ふと表紙をのぞくと『三国志』。あ、いま群雄割拠の時代にタイムスリップ中ですね!
  『古本』をお買い上げくださった皆様、またイベントにご来場くださった皆様、ありがとうございました。そして、水道橋博士さん、冨永マネージャー、ありがとうございました。

立川志の輔師匠
演目

夢の書棚ここにあり

  2年前の夏、下北沢の本多劇場で志の輔師匠の『牡丹灯籠』を観た。その翌日、当時神田古書店連盟の会長を務めてい中野さん(中野書店)に「素晴らしい公演でしたよ!」と話したところ、「これこれ、これがその速記本だよ」と、三遊亭圓朝口伝と書かれた速記本を見せてくれた。「え、速記本って売ってるの?」「うん、ほら、これもそう」「え、いつ頃の?」「これは明治17年の初版。こっちは明治40年の第100刷だね」

  これが「志の輔古書店」のはじまりだ。志の輔師匠にまつわる本だけを、神田で集めてみたい!世界一の店舗数を誇るこの神田古書店街でなら、それができるのではないか。そう思ったのだ。
  当初は誌面の企画として “仮想・志の輔古書店を作ろう”との意図だったが、「その空間を具現化して、師匠の落語を聴けたら……最高の神田の夜になるね!」私達の夢はとどまるところを知らなかった。

 

  現在の神田古書街は、二代目三代目の若き三十代の店主達が中心だ。「神田の伝統を守るだけではなく、僕たちの世代なりの新しい風を模索しないと、歴史は廃れてしまう」という彼らの心情。そこに、「志の輔らくご」の世界が、まるで理想像のようにピタリと重なった。落語の伝統を踏襲した古典と、現代社会ならではのオリジナリティ溢れる新作。その両方で、老若男女を魅了し続ける志の輔師匠の高座。その師匠がこよなく愛するのが、神田神保町の街だ。
  今年、二度目の夢の夜が叶った。「第50回の記念を祝して、そしてこれからの神田へ」と、志の輔師匠の音頭による三本締めで閉幕。200人のお客様の手拍子は、神田への最高のエールであり、そして第51回へのスタートの合図でもある。

 

  公演後、師匠が毎日新聞のコラムにおまつりのことを書いてくださったことが、嬉しかった。師匠の言葉「古書店主達の夢のある職人芸」。そうだ、そもそも私は、その職人達の人柄に魅せられて、このタウンサイトを続けてきたのだとあらためて思った。なんて言うと、「そんなたいそうなもんじゃねえよ」と顔を背ける生粋の江戸っ子達だ。
  これを読んでくださった当サイトの読者の皆様、またご応募&ご来場くださった志の輔ファンの皆様。ぜひお近くへお越しの際には、神田の江戸っ子達がつくる「夢の書棚」をのぞきに来てください。

 

▼第50回特別プログラムとして配られた小冊子
(昨年の『古本』巻頭特集の抜粋)

 

▼志の輔師匠に因んだ本だけを集めた
「志の輔古書店」に囲まれた会場。

 

▼志の輔師匠本人によるおすすめ本も陳列。

 

▼三味線や掛軸も展示