「昔は貧乏で麦飯しか食えなかったんですが、今は健康ブームで、みんなすすんで麦飯を食ってる。おかしなもんですねえ。身体にいいってんでコーリャンだの粟だの稗だの、鳥のエサになるような物ばかり食べているから、最近じゃ手を広げれば飛べるような気がしてきましたよ」と、皮肉たっぷりな話で共感を誘ったかと思うと、「噺家の真打になるにはだいたい15年ほどかかる。人殺しの時効と同じくらいですね」というブラックなセリフをポーンと投げかけ、爆笑を誘う……。古典落語の旗手と呼ぶにふさわしい実力派・鯉昇師の高座は、ふわふわとした柔らかい表情とは裏腹に、こんな辛口のジョークやエスプリの効いた小噺から始まります。そして、しだいに独自の世界に引き込まれていき、気がつけば古典落語に違和感なく入りこみ、いつしかその風情にどっぷりとひたっている……。まさに「話芸の力」をひしひしと感じるパフォーマンスなのです。
凍てつくような寒い夜、「火の用心」の夜回り番が、こっそり酒を飲んで猪鍋に舌鼓を打つという『二番煎じ』では、そのリアルな所作に見とれて、思わず「ごくり」とツバを飲み込む音が客席から聞こえてきます。そして、トリを飾った『宿屋の富』の半ば、千両の富くじが当たったシーンでは、主人公の高揚感と動揺が伝わってきて、手に汗を握りながら笑い出すお客さんも見られました。
伝統ある明大の落研出身で、この界隈とはとりわけ縁の深い鯉昇師。随所に「江戸っ子の心意気」が光る渾身の高座を、江戸の「下町文化」の中心といっても過言ではない神保町エリアで堪能した、素晴らしい一夜でした。
▲瀧川鯉昇師匠の登場。芸歴30年を超える、珠玉の高座に酔う!